1994 開幕前
即席チームの感が強い、謎の新チーム
'92年にアンドレア・モーダのマシン投計に携わっていたのがシムテックだった。彼らがとのような経緯で '94年グランプリに参戦するのか不明点は多い。一説によるとマックス・モズレーがエントリー・チーム数を合わせるために新しくチームを起こしたとも伝えられている。チーム関係者はまだまだ明らかではないが、かつてのブラバムと重複する部分が多いとか。現在のところ陣頭指揮はニック・ワースが担っている。ドイツ・ツーリングカー選手権に参戦していた「シュミット・モータースポーツ」と提携、マネジメントを進めていく予定だ。
マシンはごくコンベンショナルなスタイリングだが、 フロントサースのアームの位置が独特。コードナンバーはS941。エンジンは旧型だがフォードHBを獲得。まさに現代のグランプリ・キットカーだ。ドライバーはデビッド・ブラバムとローランド・ラッツェンバーガー(第5戦まで)。他にも数人と交渉があったらしいが、資金的な同額からの人選と見られる。
問題は資金。スポンサーも依然決まらず、健全にグランプリを戦うには不十分の状態は否めない。シムテック、テスト開始 エンジンはフォードシリーズ6
1994年からF1に登場する新チーム、シムテックは昨年12月6日、フォードと94年のエンジン供給契約を結んだ。供給されるのはフォードHBシリーズ6。
「コンペティティブかつ、信頼性が証明ずみのエンジンを得ることができて、いいスタートが切れそうだ」と、マネージングディレクターのニック・ウィルス。
そして12月17日には、シルバーストンで94年型ニューマシンS941のシェイクダウンを行なった。
テストを担当したのは、すでに94年のドライバー契約を交わしているデイビッド・ブラバム。コースをゆっくりと2周して、いったんピットに戻るとさらに8周。朝から雨が降り続き、コース状態が悪かったため、 まもなくテストは打ち切られた。この日の目的であったシステムチェックには十分なデータが集まったようで、チームはテスト結果に満足してサーキットを去った。1994 スペインGP
モンテルミーニ、クラッシュ フリー走行、赤旗中断
2日目のフリー走行終了間際、シムテックのアンドレア・モンテルミー二がクラッシュ、病院に運ばれた。
モンテルミーニは最終コーナーを曲がりきれず、メインスタンドのウォール沿いのタイヤバリアに正面から突っ込んだ。コースに跳ね返ったシムテックS194のフロント部は大破、モンテルミーニは救出されてカタロニア総合病院に運ばれたか、意識は正常。だが右足のつま先と左足の踵にヒビが入った。
モンテルミーニは、イモラで事故死したローランド・ラッツェンバーガーの代役として、今回からチーム入りしていた。契約は2戦のみ。フランスGP以降の8戦はジャン-マルク・グーノンがドライブすることが決定している。1994 カナダGP
モンテルミーニ快復順調 インディでのカムバックが目標
スペインGPでクラッシュ事故を起こしたアンドレア・モンテルミーニは、イタリアに帰国後、ひびの入った踵の手術を受けたが、術後の経過はきわめて順調。
「もうクルマを運転して、友達に会いに近所のバーに行ったりママの家に行ったりできるんだ。遅くとも2ヵ月以内にはレースに戻れるよ。早くレースがしたい」
元気に語るモンテルミー二は、インディカーからの復帰をめざしており、7月半ばのクリーブランド戦を目標にリハビリとトレーニングを続けていくという。
なお、クラッシュでマシンを失ったシムテックは、デビッド・ブラバムのみの一台エントリーでカナダGPに臨んだ。これは、財政的にも時間的にも新たにマシンを製造する余裕がなかったため。フランスGPからヨーロッパGPまでの8戦は、ジャン−マルク・グーノンがドラィブすることが決定している。1994 イタリアGP
MTV、来年もシムテックに
シムテックのメインスポンサー、音楽専門テレビ局のMTVは、95年もシムテックのメインスポンサーを続けることになった。
1994 ヨーロッパGP
シムテック、無名の新人を起用 日本GPは井上隆智穂がドライブ?
シムテックのドライバーが交代した。
ジャン-マルク・グーノンに代わってデビューを果たしたのは、無名のイタリア人、ドメニコ・スキアタ レッラ。契約はヨー□ツパGPとオーストラリアGPの2戦。
スキアタレッラは、26歳のイタリア人。愛称ミモ。90年までイタリアF3に参戦。今年はインディカーに数戦出場。
実績不足でなかなかスーパーライセンスがおりず、手に入れたのはヨーロッパGP直前。シムテック首脳をやきもきさせた。
またシムテックは、日本GPで国 際F3000ドライバーの井上隆智穂を起用する方針を固めた。
井上は1963年9月5日生まれの31歳。93年の全日本F3に参戦したあと、国際F3000チームに資本参加して共同オーナーとなり、自 らドライバーとして、今季フル参戦 した。1994 日本GP
隆智穂、シムテックからF1デビュー 国際F3000からステップアップ
シムテックから新たな日本人ドライバーがデビューした。国際F3000ドライバーの井上隆智穂だ。日本GPのみのスポット参戦。
井上は、93年全日本F3に、英会話学校のノバを母体とするスーパーノバから参戦、今季は国際F3000チームに資本参加、チーム名もスーパーノバと変更し、フル参戦した。チームの役員でもある。入賞はないが、8戦中6戦完走と安定した成績を残した。
ヨーロッパGP後のバルセロナテストで、シムテックを初テストした井上。鈴鹿には、スーパーノバの猿橋望オーナー、デビッド・シアーズ監督、同僚ビンセンソ・ソスピリも同行して応援。みごと予選を通過。
「とにかく予選通過できてよかった。来季のシートがかかっているわけじゃないし、プレッシャーもなかった」
グランプリデビューを前に井上は淡々と語る。来季も国際F3000ヘフル参戦する予定だ。1994 オーストラリアGP
井上降智穂、1戦だけのF1参戦来季はF3000へ専念
シムテックから日本GP1戦だけのFl参戦を果たした井上。国際F3000チーム、スーパーノバの役員兼ドライバーだ。スーパーノバはF1参戦が目標といわれ、ロータス買収騒動の際も、ヨーロッパでは新オーナー候補のひとつとして報道された。井上にスーパーノバの目的、ドライバーとしての目標を聞いた。
---13日間のF1はどうでしたか。
「ま、こんなもんじゃないですか」
---プレッシャーは感じましたか。
「全然。ぼくの場合、来季のシートがかかっているわけでもないし」来季も国際F3000で?「そうです。ぼくはスーパーノバの役員でもありますし」
---英会話学校のノバがスポンサーですか。
「少し誤解がある。英会話学校はノバ・グループのひとつにすぎない。グループの中に、スーパーノバという会社があり、その下にスーパーノバ・レーシング・リミテッドという国際F3000チームがある。私はスーパーノバのサラリーマンであるとともに、チームの役員なんです」
--- サラリーマン?
「今回のF1参戦はあくまで個人的なもの。11月3日は祝日。4日は有給休暇。5,6日の土、日は休日。鈴鹿が終わった月曜日は出社です」
---スーパーノバをスポンサーとして、国際F3000やF1の参戦資金を捻出したのではない?
「国際F3000では自分でシート料を払っています。シムテックには払っていません。スーパーノバ・チームの同僚や、監督を日本に呼んだ航空券や宿泊費は自己負担ですが」
---会社員には相当な負担では?
「私はモナコの居住権を持っているし、きちんとした財産もあります。ちなみに、シムテックのオーナー、バーバラ(シムテックのメインスポンサーであるMTVの会長、バーバラ・ベラウ)とは同じアパートメント。ラッツェンバーガーとは隣同士でした」
---スーパーノバとしてのF1参戦はありえますか。
「工場もマシンもある。問題はエンジン。それさえ手に入れば、すぐにでもF1へ行けます」1995 開幕前
野田、シムテックと正式契約!日本人4人目のフル参戦ドライバーに
野田英樹のF1フル参戦が決定した。1月9日、シムテックは野田と95年の契約を結んだとを発表した。契約は1年。オーナーのニック・ワースは「F3000、F1での走りを見て、有望なドライバーであると確信している」と期待をかける。
95年のシムテックはフォードV8を搭載予定。2月後半完成を目標に、現在マシンの製作を急いでいる。94年のエースだったデビッド・ブラバムが離脱したため、野田の同僚は未定。現在、ドメニコ・スキアタレッラが候補にあがっている。契約直後の野田を直撃した。
---まず、シムテックとの契約の経緯について聞かせてください。
「去年のオーストラリアGPが終わった後に、シムテックのマネージャーを通して話がはじまりました。他の何チームとも交渉はしていましたけど、シムテックの内容は前向きだったし、とても協力的で魅カのある内容でした。正式な契約は94年のクリスマスの後くらいでした」
---ニック・ワースは何か?
「彼はお互いの立場をよく理解してくれたし、過去のレースも評価してくれた。交渉中のドライパーのなかでも、僕を優先してくれたところもあった。それにビジネスのことだけじゃなく、一緒にレースを戦おうという姿勢が印象的だった。たしかに彼らの1年目は大きな壁があったと思うけど、今年は協カしてもっといい結果につなげられると思う」
---具体的な体制と今後の予定は?
「契約は95年の1年問だけでチームメイトはまだ決まっていません。2月になったらイギリスに戻る予定です。ニューマシンのイラストは見せてもらったけど、オーソドックスですけどなかなかよさそうですよ。シェイクダウンは開幕直前になるでしょう。2月の中旬には94年のマシンで、セミオートマのギヤボックスをテストする予定です」
---最後に今年の抱負と目標を。
「僕がフル出場するのも初めてだし、チームもまだ若いから苦労も少なくないと思います。だけど、新しいマシンには期待してるし、ポイントが取れるように頑張りたいですね。僕には失うものは何もないですから。右京さんや亜久里さんにも負けないように頑張ります」シムテック、シルバーストンでテスト
シムテックは2月8日と9日の2日間、シルバーストンでテストを行った。
昨年の雨中のテストで10周しか走れなかったシムテックにとっては、実質的に初シェイクダウン。デビッド・ブラバムが、システムチェックを目的に初日20周、2日目7周。
「いいフィーリングだ。低速コーナーで少しアンダーが出るけどね。システムチェックも完了したし、これで本格的なテストをはじめられる」とブラバムは満足そうだ。ベストタイムは初日1分28秒20、2日目1分30秒だった。1995 開幕直前
開幕戦出場は五分五分? 野田英樹の立場が徹妙に
95年、2年目のシーズンを戦うシムテックだが、開幕を直前に控えていながらシートが確定していない。期待の野田英樹はすでにそのシートのひとつを確定していたが、ここへきて海外の情報筋を中心に、野田の開幕出場を危ぶむ声も出ている。
これはチームメイトにヨス・フェ ルスタッペン、ドメニコ・スキアタ レッラのふたりが決定し、3人体制 となったためで、14日にはイタリアでスキアタレッラを中心とする発表会が催されている。マシンの製作状況も難航しているようで、シェイク ダウンテストもいまだすませていない。複雑な状況下に置かれた野田も「ブラジルGP出場は五分五分のと ころ」とコメントしている。1995 ブラジルGP
野田の出場は第5戦以降シムテックの95年体制固まる
シムテックは3月17日、ロンドン市内のMTVヨーロッパ本社で、ニューマシンS951の発表会を開き、ヨス・フェルスタッペン、野田英樹、ドメニコ・スキアタレッラの3人のドライバーが顔をそろえた。
シムテックではフェルスタッペンを全16戦に出場させ、開幕戦から4戦はスキアタレッラにもう1台をドライブさせる方針。野田の出場は第6戦カナダGP以降となる。
この日、発表されたS951は一度もテストされないままブラジルに運ぱれ、開幕戦でシェイクダウンを行なう形となった。1995 モナコGP
シムテックの財政危機深刻カナダGP前に撤退か?
開幕前から予算不足を噂されていたシムテック。
「今のままではカナダGPには参戦できない。スポンサーが資金を出してくれなければ、今回を最後に撤退せざるをえない」
オーナーのニック・ワースはモナコGPでこう語ったが、オーナー自らチームの危機を公言したうえでスポンサーマネーの増額を勝ち取る以外にないところまで追いつめられているようだ。その後ドイツの伯爵からの資金でカナダGP参戦の資金だけは確保したようだが、フランスGP以降のめどは立っていない。
次戦カナダGPから参戦予定の野田英樹は、このままではシートがなくなるおそれも出てきた。1995 カナダGP
シムテック、カナダGP不参加事実上のF1撤退か?
シムテックは5月31日、財政難を理由にカナダGPへの不参戦を明らかにした。フランスGPから復帰する意向だが、このまま撤退に追い込まれる可能性もある。
シムテックの財政危機が表面化したのは、前戦モナコGP直前。ニック・ワース代表は、「カナダGP参戦のためには200万ドル(約1億6000万円)が必要。スポンサーから資金の積み増しがなければ参戦できない」と、モナコのパドックで悲痛な訴え。主要スポンサーによる緊告会議の結果、ドイツの貴族がカナダGPの予算を拠出する意向を示したが、この話も最終的に潰れ、不参加を余儀なくされた。
ワース代表はフランスGPからの復帰をめざしているが、難問は多々ある。まず、カナダGP欠場の罰金として、マシン一台あたり35万ドル(約2800万円)、2台分で70万ドル(約5600万円)をFIA(国際自動車連盟)に支払う必要がある。さらに、50万ドル(約8000万円)の参戦保証金も必要となる。財政の破綻したチームにとってはきつい条件だ。
ただ抜け道がないではない。今季は全17戦で行なわれるが、FOCA(F1コンストラクターズ協会)と各チームが開幕前に結んだ契約では、開催数は全16戦。強引に解釈すれば、1戦欠場しても罰金を逃れる可能性もないではない。
「余分な1戦に欠場しても罰金支払いの必要はない」というのがバー二ー・エクレストンFOCA会長の見解だが、カナダGPを「余分な1戦」と解釈するのはやや強引だろう。この牽強付会がFIAに通用するかは疑問が残るところ。
撤退となれば、ロータス、ラルースに次いで今季3チーム目。26台のフルグリッドを割ってしまう。F1のイメージ低下は避けられず、エクレストン会長としても何とか助け船を出したいところなのだが、すでにシムテックのメカニックの大半は解雇されており、ワース代表にはザウバーのテクニカルディレクター就任の噂があるほど。残念ながら、このまま消滅に迫い込まれても不思議ではない状況だ。幻と消えた野田のシート フェルスタッペンにザウバーが触手?
シムテックの不参加により、野田英樹とヨス・フェルスタッペンがシートを失った。
開幕5戦、ドメニコ・スキアタレッラにシートを譲り、ようやくカナダGPから参戦予定だった野田は出鼻をくじかれた格好。すでにシート料も支払ったあとの不参加決定は災難としかいいようがない。モナコGP後のシルバーストン合同テストに現れた野田は、今回の件について固い表情で「ノーコメント。今は何も言えない」。フランスGPからの復帰に望みをかけているようだが、万が一撤退が決まれぱ、もう一度最初からF1シートを探さねばならないことになる。
フェルスタッペンは、元々ベネトンから貸し出された身分。今後もベネトンのテストドライバーを続けることになるが、ザウバーが誘いをかかけているとの噂もある。